2006年 10月 30日
ファミリーハンセン : スペインから来た花嫁?! |
窓から見えるリンデンバウムの葉が黄色く色付いて、冷たい風に
一枚、また一枚と散り始めた秋の日のこと。
そろそろ来る頃、と思いながら夕食の準備をしていると
玄関のチャイムが鳴って、ほらね、ヨアンがやってきた。
彼は仕事が終わると我が家に立ち寄り、冷え込んで来たからボイラーの
調節をしたとか、除雪機の手入れをしなければ、というような
日常の報告をするのが日課になっていた。
その日もこまごまとした話しが一段落すると、さてっ!と
明るい声で私達に聞いた。
「来月ジミーのコンフォメーションをやる事になったけど、
二人とも来てくれるね?」
コンフォメーションというのはキリスト教国で行われる子供の成長を
祝う儀式で13才になった時と決まっている。
「もちろん、喜んで!」快諾すると、彼は安心したように、ついては
週末に打ち合わせを兼ねて家族が集まるから私達にも是非来るように、
と言うと、それが本日の用件だったとでもいうように急いでリスの
待つ自宅へと帰って行った。
約束の週末、ワイン片手にハンセン家に向かう。
我らがティンガーデンにはエレベーターなどもちろん無い!
彼らの住まいは最上階なので、いつも途中で息が切れてしまうのだけれど、
その日は早くも階段を伝って流れて来たリスお手製の
ローストポークの匂いに釣られるようにクンクン…
グーフィーよろしく一気に6階まで登る。
フーッ!
息を整えながらチャイムを押すと「ウエルカム!」と、優しいリスの
笑顔が私達を迎えてくれた。
キャンドルが灯された室内は北欧ならではの暖かい雰囲気に包まれている。
リビングのソファには先客がいて、私達の姿に立ち上がると笑顔で握手
を求めて来た。「こんにちはタカシ。相変わらず元気そうね。あらっ?
キョーコは美容院に行ったの?お似合いよ、そのヘアスタイル。」
「ありがとう。ラファエルも元気そうで何より。」
ラファエルはヨアンの弟スウェンの恋人で、スペイン人で、もう一つ
付け加えれば男性だ。彼は当時、旧市街地の中心ストロイエ通りに有った
イタリアンレストランの総支配人をしていた。心優しく、趣味が良く、
話し上手で気配りの人。見た目はあくまでも紳士だが、内面的には
そん所そこらの女ではとうてい適わないレディーなのであった。
かつて、旅先のスペインで恋に落ちたスウェンから相談を持ちかけ
られた兄ヨアンは、弟に潜んでいた知られざる一面を見せられて、
さすがに動揺したそうだ。しかし、そこは話の分る兄貴のこと。
「ラファエルに会ってみたら、彼の心持ちがあまりにも優しくてね。
それで、両親を説得する時にも一肌脱ぐ気になったってわけさ。」
後年、デンマーク政府が世界に先駆けて同性愛者の結婚を合法化した時
(1989)彼らはいち早く正式に入籍した。
夏が終わろうとしていたある日の事。
野原のラズベリーを摘みに来ないか?という彼らの誘いに
リスとヨアンと私達の4人で出かけた。
ラズベリーは彼らの家の裏に広がる野原一帯に実っていた。
汗ばむ程の陽射しの中で、夏の内にすっかり乾燥した草の匂いを
嗅ぎながら薮に分け入る。指先を赤く染めながらラズベリーを摘んでは
カゴに入れてゆく。一つ口に放り込むと、甘酸っぱくて微かに土の
匂いがした。駆け足で過ぎ去ろうとしている晩夏のからりと乾いた空気の
中で、私は赤い実を口に運びながら、ふと、野うさぎはこんな感じで
暮しているのかな?と思って嬉しくなった。
「そんな事があったわね」と、久しぶりに会った彼らとのおしゃべりは
尽きない。それにしても、ラファエルと話していると、彼の言葉が私の頭の中で
日本語に変換される時、全てが完璧女性言葉になってしまうのは、我ながら
不思議だった。
ヨアンにはもうひとり、ドーテという名の年の離れた妹がいる。
彼女はやがてアメリカ人青年と結婚する事になるのだが、子宝に恵まれず
後年インドから黒い瞳の男の子と女の子を迎えて、二人の子供の養父母となった。
そんなわけで、ハンセンファミリーは年を追うごとにメンバーが増え、
文字どおり多彩な家族構成になって行ったのだった。
ある時、そんな彼ら家族を讃えると、リスは「それに貴女達日本人の家族もネ!」
と、晴れやかな笑顔でそう言った。
by sundby
| 2006-10-30 21:37
| ティンガーデン