2006年 11月 13日
ファミリーハンセン : ジミーの初恋騒動 |
ジミーのコンフォメーションは和やかに行われた。
両親からのプレゼントは新しい自転車とスペイン旅行。成長した息子に
リスとヨアンも誇らし気だった。
庭で物憂い風情のジミーを見かけるようになったのは、それから2年と
ちょっと過ぎた頃、彼がようやく16才になった時だった。
暫くして、ジミーの初恋が判明した。相手は一つ年下の女の子。
少し前までは暗くなるまで外で飛び回っていた少年ジミーが、
可愛らしいガールフレンドと仲良く一緒にいる姿に、若いっていいなあ…
私などは微笑ましさ100%に羨ましい気持を少々混ぜ込んで、少し遠く
から眺めていたものだ。
「タカシに相談がある。」とヨアンがやって来たのは、そんな初恋進行形の
ジミーを暖かく見守ろうではないか、と二人で話していた矢先の事だった。
「ジミーには困ったもんだ。」ため息混じりでヨアンが話し始めた。
「事もあろうに、二人で一緒に住みたいと言い出した。チナ、相手の女の子だが、
家の事情で居場所が無くなってしまったと言うんだ。詳しい事情は後で話す
として、とにかくあいつの事だから、同情心で請け負うってこともあり得るし、
その辺は聞いてみたんだが、断じてそうじゃない。二人で暮したいと、そう
言うんだよ。どうしたものか?」。ヨアンが、怒るでもなく、息子から
問題を投げかけられたと思案している、かなり冷静なその様子に私はまず
もって驚いた。
だって、そうでしょう?考える余地なんて無いはずでしょう?
どんな理由が有るにせよ、親だったらハッキリ言えるんじゃ無いの?
バカを言え!他にやる事が有るだろう?!とか、なんとか。
…私は内心の驚きを完全に顔に出しながら、しかし、口には出さず黙っていた。
タカシさんは、どんな理由にせよ一緒に住む必要は無いし、第一、学校が
おろそかになりはしないか?と一応反論を述べてはいたが、
それ以上は黙ってしまった。
「個人主義」私達の頭にこの4文字がくっきりと浮かんで消えた。
そんな事があって少しして、本当に彼らが一緒に住む事になったと知った。
経済的に独立していない息子達の為に取りあえず、ヨアンが事務所として
使用しているスペース(なんと、我が家と同じ広さ!)を提供する事に
なった。多分女の子の「家の事情」で本当に居場所が無くなってしまった
のかも知れない。この国ではあり得る事だった。
もともとジミーは心優しいけど根気が無いのが玉に傷の所が有り、
実はそれが母親リスの一番の心配でもあったのだった。
聡明な彼女なら今回の事態もとうてい続くまい、と想像できるはずなのに、
子供の事となると案外分らなくなってしまうのか?いや、もしかしたら、
どうせすぐダメになる、と知っての判断か?それにしても16才と15才、
若いのを通り越して幼なすぎないかなあ?
何だか釈然としない気持が尾を引いて、それからしばらくは
お互いに言いたい事を言えないような、奥歯に物の挟まったような、
気まずい空気が私達とハンセン家の間に流れるようになってしまった。
結局、大方の予想通りジミー達のおままごとのような同棲生活は一年程で
結末を迎えた。そして、その後は何ごとも無かったかのようにハンセン家にいつもの
日常が戻った様子だった。でも、あれ以来 少々大人ぶった態度のジミーは
可愛気無くて、もう私達の好きだった少年ジミーでは無くなってしまった、
それはちょっぴり淋しいことでもあった。
この小さな出来事はそれまで呑気に暮して来た私に、デンマークと
日本間の、いや、もしかしたら、単純に私と大好きなハンセン家の人々の間に
横たわる根本的考え方の違い、精神構造の違い、常識の違い、様々な違いが
確実に有ると言う事を教えてもくれたのだった。
by sundby
| 2006-11-13 22:39
| ティンガーデン