2006年 10月 01日
デンマーク生活から学んだエトセトラ |
*IDカードの功罪 2*
健康一色の私が医者に行こうと決心したのは、何を隠そう他ならぬ、
この私のお腹の中に赤ちゃんがいるような気がして来たからだった。
しかし、何しろそれまで医者知らずの呑気な生活を送って来た私達。
タカシさんに至っては「医者に行く時はお終いの時!」と言って
はばからない程の大の医者嫌いときている。二人とも指定のクリニックが
どこに有るのかも知らないありさま。
この期に及んで身体的不安と、どんな医者なのか?という人的不安で、
私の心音は高まり、脈拍が早鐘のように耳の後ろで波打つほどになっていった。
ああ、こんな事なら風邪でも引いて様子を見ておくべきだった、なんて
嘆いたところでもう遅い。
とにかく行かねばなるまい!私は意を決してクリニックを訪ねたのだった。
拍子抜けするほど閑散とした待ち合い室で、事務員風の地味な女性に
くだんのIDカードを提出した。診察室は質素で何となく寂れた雰囲気が
漂ってはいたものの、検診の結果めでたく妊娠が判明した。
もしかして…とは思っていたものの、それが、本当です!と宣言されたの
だから、もうこれは一大事だ。私はわけも分らず浮き足立ち、
医者に礼を述べると一目散に朗報を持って帰った。
そして、どんな医者だったかと心配するタカシさんに、
「うん、ちょっと冴えないおじいちゃん先生だけど、でも良い人だった。」と、
取りあえずの感想を述べた。だけど正直なところ、その時の私は
お腹に宿った赤ちゃんのことで胸がいっぱいで、医者の印象などすでに
ぼやけてしまっていた。
しかし、後日、血液検査の為に再訪した時に、愕然となった。
注射器を持つ老医の手先が微妙に震えているのだ!思わず「待って!」と
言う言葉が出るより一瞬早く、彼は突然注射器を机に置くと、何という事か
「あなたの血管は細くて針が入らないから、次回から行く事になる総合病院で
検査を受けるように。」と言い放ったのだった。はいはい、そうします。
私は全身から力が抜けるのを感じながら、腕に注射針をさされなかった事に
感謝した。そして、全てが腑に落ちた。
どうりで何時来ても患者がいないわけだ。人気の有る医者は事前に予約が
必要だと言う事も後から知った。
IDカードはそれさえ持っていれば通常の事なら身分証明も出来るし、
突然の事故や病気など、緊急の場合は大いに助かる。
しかし、ホームドクターに関しては事前のチェックが必要だと、遅まきながら
学んだ。
ちなみに、指定の総合病院に行き、例の医者のメモを渡すと、若い看護婦さんが
優しく私の腕に注射針を刺した。もちろん彼女の指先が震える事も無く、
私は少しの不安も痛みも感じる事なく、無事に検査を済ませたのだった。
やっぱり、彼はヤブ医者だった。
by sundby
| 2006-10-01 21:50
| ティンガーデン